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鏡が反対に映すのは

2020/09/09
written by 先田 力哉

先田 力哉

鏡が反対に映すのは

以前、NHKの人気番組「チコちゃんに叱られる」で、「鏡が左右を反対に映す理由はわかっていない」と放送していました。でもそんなことはないと思うので、ここで説明してみようと思います。

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(画像の出典:https://publicdomainq.net/geisha-woman-0007011/


そもそも、鏡が反対にするのは、「左右」というわけではありません。

このことは、番組でも放送していたように、バックミラー(ルームミラー)に映っている後続車のウインカーの方向で理解できるはずです。
右に曲がろうとしている車のウインカーは、鏡の中も実際も、運転者から見ればどちらも同じく右側です。
同様に「上下」についても、バックミラーの中と実際とで、上は上、下は下で同じなので、同じくそのまま映っています。

鏡が反対に映すのは、実は、鏡の「垂直方向(奥行き方向)」なのです。

バックミラーの例では、垂直方向は「前後」ということになります。実際、バックミラーの中では後続車は前から向かってきているように見えますが、もちろん本当の車は後ろから前に走っているので、反対になっていることがわかります。

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(画像の出典:https://publicdomainq.net/mount-fuji-lake-0025916/

「鏡が反転するのは垂直方向」ということを最もよく実感できるのは、「逆さ富士」かもしれません。

この場合の「鏡」は湖面で、湖面の垂直方向は「上下」です。そして、反対になっているのは、まさしく「上下」です。左右は反対になってはいません。

以上をまとめると、「鏡が反対に映すのは、垂直方向(奥行き方向)である」ということになります。

(まあ、当たり前と言えば当たり前ですよね。鏡が光を反射する際には、鏡の垂直方向成分だけを反転するわけですから。)

ここまではよろしいでしょうか?


それなのに、なぜ左右が反転していると思ってしまう(ことがある)のでしょうか?

その前に、一つ確認しましょう。下の絵をご覧ください。

yasuhiro.png

絵の中の人物が上げているのは、右手でしょうか? それとも左手でしょうか?

もちろん右手ですね。でもなぜ右手と認識するのでしょうか?

(「コイツ、変なこと言いだしたな、大丈夫か?」と怪訝に思われるかもしれませんが、当たり前を疑うのも場合によっては大切です。辛抱してお付き合いください。)

絵を見ているあなたからすると、「向かって左」ですよね。にもかかわらず「右」だと認識するのは、なぜでしょうか?

それは、こちらからの「向かって左」は、こちらを向いて立っている相手の人からすると「右」だということを、さんざん経験して知っていて、ほぼ無意識に左右を反転して認識する習慣ができあがっているからです。


では、「鏡に映った自分」を見た時に、あなたはその姿をどう認識するでしょうか?

鏡に映った像を「鏡像」と言います。現実世界のモノと、鏡像とは、1つの方向(鏡の垂直方向、この場合は前後方向)だけが反対になっています。

この「1つの方向だけ反対」というのは、実は厄介なのです。

現実世界の中では、たとえば、上下を同じにしたまま、前後と左右の両方を反転するように移動することはできます。
要するに「回れ右」ですね。そうすれば、前後の向きと左右の向きの「2つ」が、どちらも反対になります。

しかし、たとえば前後だけ反転することは、細胞レベルで組み替えるようなことでもしない限り、できません。つまり生きた人間には無理です。

(ちなみに2001年に野依博士が受賞したノーベル化学賞のテーマもこのことに関連しています。鏡像異性体の一方だけを選択的に合成するというものです。)

というわけで、鏡に映った像は、現実とは重ねることができない、非現実的なものなのです。


しかし、鏡に映った自分を見た時に、もしも、「非現実的な像」であることを忘れて、つい「鏡の向こうまで歩いて行って回れ右してそこにいる自分」だと思ってしまったら、どうなるでしょうか? その場合は「無意識な左右反転」回路が働いてしまうはずです。実際に鏡に映っている姿をそれと比べると、確かに「左右が反対」です。

つまり、鏡が左右をそのまま映すために、現実の移動ならあるはずの左右反転がなく、それにより「左右が反対」だと思ってしまうのです。

では、逆さ富士の場合には「左右が反対」と思わないのはなぜでしょうか? それは、上下の反転をそのまま受け入れて、非現実的な姿だと認識するからです。この場合は「無意識な左右反転」回路が働きません。

また、バックミラーの場合は、そもそもそれが後ろを映すものだと認識していて、映っている車が前から来ているとは思いません(そんなことを想像していたら落ち着いて運転していられません)。この場合も「無意識な左右反転」回路は働きません。

左右が反対だと思うのは、「無意識な左右反転」回路が発動する場合です。すなわち、「鏡の中に映っているものが実際にそこにある」とつい思ってしまう場合で、かつ、無意識に上下を維持するように重ねて比較する場合に限られます。


というわけで、結論をチコちゃん風に言うと、「現実世界なら当然の左右反転が、むしろないから」です。

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